こんにちは、社会保険労務士小野事務所です。
小野事務所ニュースレターをご案内いたします。
梅の花から河津桜満開のニュースを聞くと年度末と新年度を迎える時期を実感します。会社の事業として退職者の手続きや新入社員を迎える準備の時期となります。人手不足が叫ばれています。新しい社員を採用しても戦力になるにはそれなりの経験と年数が必要です。人材育成やコミュニケーションスキルアップが唱えられますが、一つの業務を見る視点は部下と上司はかなり違っていると思います。まずは部下の視点を少し上に見ていただいて、上司の視点は少し部下に合わせるような努力が必要と思います。まずは部下が仕事に対してどういう意識を持っているか聞くことから始めてみてはどうでしょうか。その後、具体的な業務目的を定めてレベルアップの指導を継続してみてはいかがでしょうか。 2024年問題や労働条件明示の改正など4月からの改正に準備に取り組んでみてください。主な内容は
1,小野事務所通信2月号
2,2024年4月から労働条件明示のルールが変わります!重要
- 全ての労働者に対する記載事項
- 有期雇用の労働者に対する記載事項
- 2024年4月から記載事項が変更された背景
- 2024年4月施行 関連する法令改正の内容
- 無期転換後の労働条件に関する説明(努力義務)
- 求職者への労働条件の明示に追加すべき事項
3,判例について
定年再雇用者にかかる同一労働同一賃金が争われた事例
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1.小野事務所通信
2月号をご案内いたします。
- 令和6年1月から両立支援等助成金に新コース! 育休中等業務代替支援コースを新設労働政策審議会建議「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について」を公表
- 労働政策審議会建議「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について」を公表
https://drive.google.com/file/d/1b8kekdZ-gR8Zq7MJtculcZ6yOnTkc544/view?usp=drive_link
- 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります!重要
2024年4月1日から従来の労働条件明示に追加された内容は以下です。
<全ての労働者に対する記載事項>
・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲
<有期雇用の労働者に対する記載事項>
・更新上限の有無および内容
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件
<無期転換とは>
同一の使用者との間で締結された有期労働契約が通算
5年を超える場合、労働者が無期労働契約の転換の申込みをすれば、現在の有期労働契約の終了日の翌日から無期労働契約へと転換します(労働契約法18条1項)。無期労働契約の労働条件は、別段の定めがない限りは、契約期間以外は現在の有期労働契約と同一となります(同項後段)
<2024年4月から記載事項が変更された背景>
①無期転換ルールに関する認知と理解の促進
労働契約法に基づき、5年以上継続雇用されている有期雇用労働者は無期労働契約への転換を申し込めますが、労使間では、無期転換ルールに関する認知と理解が十分に広がっていない状況です。
無期転換ルールに関する認知と理解を促進するため、労働条件通知書において記載が義務付けられました。
②労働条件の明確化
近年では、勤務地限定正社員や職務限定正社員など、「正社員」の枠内でも多様な働き方が登場しています。そのため、多様な正社員に限らず、労働者全般について、雇用ルールを明確化するための記載事項として「就業場所および従事すべき業務の変更の範囲」が追加されました。下記にリーフレットとモデル労働条件通知書を載せています。会社の現在使用の様式と比べていただき、検討してください。有期契約者のみでなく、4月1日以降労働条件通知書を新たに従業員と交わす場合は、正社員、有期契約者、アルバイト、パートを問わずこの法改正が適用されるますのでご注意ください。
※労働条件明示に違反した場合は、罰金30万円処せられます(労基法120条1号)。
【2024年4月施行】関連する法令改正の内容】
<更新上限に関する説明義務>
使用者は、有期労働契約の締結後、契約の変更や更新に際して、通算契約期間や契約更新回数について上限を定めるまたは上限を引き下げる場合は、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならないとなりました(改正後の雇止め基準1条)。
<無期転換後の労働条件に関する説明(努力義務)>
使用者は、改正後の労基法に基づき無期転換後の労働条件を明示する場合は、労契法3条2項の規定の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、労働者に説明するよう努めなければならないとされました(改正後の雇止め基準5条)。
<求職者への労働条件の明示に追加すべき事項>
職安法5条の3では、労働者の募集や職業紹介等を行うに際し、求職者等に対して、労働条件を明示しなければならないとされています。明示が必要な労働条件については、職安則で定められていますが、労基法の改正に伴い、業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約の更新上限も追加されました(改正後の職安則4条の2第3項)
ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります。」リーフレット
001156050.pdf (city.tatebayashi.gunma.jp)
モデル労働条件通内書(厚労省)
001156118.pdf (mhlw.go.jp)
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3.判例について(PSRnetwork記載)
〇定年再雇用者にかかる同一労働同一賃金が争われた事例
名古屋自動車学校事件
最高裁判所第一小法廷令和5年7月20日判決
〇事案の概要
本件は同一労働同一賃金の原則について検討された事件である。
一審原告は、被告自動車学校に教習指導員として勤務し定年退職した。定年退職後に嘱託職員として1年の期間を定めた有期雇用契約を締結し勤務していた。
嘱託職員としての業務や責任に差異はなかった。基本給・賞与などが減額されたため、提訴し、一審二審ともに勝訴した。そこで一審被告が上告した。
判旨
基本給及び賞与等一時金について「性質や支給されることとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものにあたるとした原審の判断には同条の解釈適用を誤った違法がある。」として上告人敗訴部分を破棄し差し戻した。
解説
同一労働同一賃金の原則といわれるようになってきているが、現場では全く同じ扱いにすることについては疑問を持っているのではないかと思われる。これは労務関係の職種にある人達にとっては、理想として持ち出されることは理解できても現在でも日本では重視される終身雇用という枠組みでは長期的に会社に在籍し会社に利益をもたらす正社員とそうではない契約社員や嘱託社員を同列に扱うことは困難だと感じているところであろう。
本件では定年後に嘱託職員として再雇用した職員の問題である。定年が延長されていくことなどで財務負担も大きいところ、政策の方針などで雇用せざるを得ないという事情に苦しむ担当者もいると想像できる。
本件で、最高裁は「労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を測るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。」「もっとも、その判断に当たっては、他の労働者の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」とした最高裁の判断を引用して、事案の検討を行うべきだとした。
基本給の目的について最高裁は、勤続年数を反映しているもののそれのみ決められるものではなく、また同時に正社員の基本給には功績の評価も含まれることからすると、職能に応じた支給額が含まれる「職能給」と考える余地があり、嘱託職員に対する給与の支払いとは異なる目的を有すると考えることができると認定した。
また、嘱託職員は役職に就くことは考えられておらず、正職員とは異なる基準が定められていたことからすると、嘱託職員の基本給は正職員に対するものとは目的が異なると考え得るとして、原判決の上告人(会社)敗訴部分を破棄して名古屋高裁に差し戻した。
正職員の処遇は人事の問題などもあり、また、労使交渉で雇用確保と賃上げの問題などが話し合われていることを考えると、こういった事情を考えずに労働契約法20条を適用されてしまうと現場の労務担当者が苦慮している事情を無視することになり、現場を知らない判断と言われかねない。この点でこの最高裁の判断は妥当であると考えられる。
なお、差戻後どういった判断になるかについては、差戻審で和解されてしまうと公表されないことが多く、結果がわからないままになることもあるので、判例検索等でヒットしないままモヤっとして終わることがあるのを知っておくとよいかと思われる。
概要
正職員と定年退職後の嘱託職員の基本給及び賞与等に差異があることが、労働契約法20条で禁止される不合理な差別であるとした原判決を最高裁が基本給や賞与の支給目的や性質に照らして違いが不合理であるかの判断が誤っているとして、単純に差異があることのみでは不合理とは限らないとした。
執筆者
弁護士坂本正幸
東京大学法科大学院前専任講師。特定社労士認定講師。